うちの両親は山形と北海道の出身で、父が山好きということもあって、片品に移住してきたそうです。
子どもの頃は、家の周りに山しかなかったので、河原に行ったり釣りしたりとかしてましたね。裏の林にアスレチックを作ったり。養蜂の箱の近くにクマを見つけて、自転車で行ったのに自転車を置いて走って逃げたこともありました。いや~あれは怖かった。でも楽しかったですね、本当に楽しかった。ハチの巣割ったりして、危険なことが面白くてしょうがなかった。昔の片品の子どもはみんなそんな感じだったんじゃないかな。
当時親父は戸倉スキー場で働いていたんですけど、親戚が温泉まんじゅうの商売をしてたのもあって、最初はお袋ひとりで「尾瀬思い出まんじゅう」っていうまんじゅうを作って売り始めたんです。尾瀬の人出がピークの時代だったのもあって、売れ行きもよく家族総出でまんじゅう作りをしました。でも、バブルが終わって尾瀬のお客さんも減って、まんじゅう自体も下火になってきたんです。それでなにか違うものをって、パンを始めたんですよ。
ちょうど高校の時読んでた漫画がパティシエの話で、主人公がすごく女の子にモテるんですよ。それで「ケーキ製造できればモテるかもしれないなぁ、あ~これいい!」って思って。うちもパン屋だしちょうどいいかな、という感じでした。それで洋菓子関係の求人を見つけて。川崎の洋菓子も作ってるパンの工場に就職をして5・6年間働きました。でも実際はケーキ作っても全然モテなかったです(笑)。
都会で嫌だったことはあんまりないんです。でも生活するのにお金がかかるから、やっぱりたいへんだなっていうのはありました。
それでたまに片品に帰省すると、自然があって、やっぱり良かったんですよね。自分の家があるっていうこともすごく安心するというか、そういうのがあるから帰って来たのかな。
あとはやっぱり“人”ですかね。友達もいっぱいいるし、はじめての人も、村の中で会えば次には友達みたいな感じになるから。
店が戸倉から今の場所(村の中心部の鎌田)に移ったのは、自分が就職先の川崎から帰ってきた、24歳の時。同時に俺が洋菓子を製造し販売を始めました。戻って来た時はまんじゅうもまだ製造していたので、まんじゅう作って、パン作って、ケーキも作って、みたいな感じでした。川崎でケーキ作っていたって言っても5年くらいじゃ何も出来なくて、今思うとよくそんなんで始めたなって思います(笑)。
片品に帰って来て、やっぱり自分で色々しなくちゃと思いました。パティシエなんて言うけど、パティシエってなんだろうと。資格を取れば“俺パティシエだよ”って胸張って言えるかなって思って、試験を受けることにしたんです。だけど国家資格なので(菓子製造技能士)すごい難しくて。筆記は勉強すれば合格するんだけど、実技が。事前にこういうもの作りますよっていう案内が来るんですけど、それ見て何これ!?って思いました。チョコレート、バタークリーム、飴細工のそれぞれを使って最終的に一つのケーキに仕上げるんですけど、どうすんだよ、これって思って。当時ネットもそんなにないし、それでも何とか形にして埼玉まで行ったけど、見事落ちました。そこで恥ずかしい思いをして、次の年も頑張ってやっと合格しました。これでちゃんとパティシエって名乗れるなと。
でもね、実際そこで努力したことが仕事の中でもすごく生きてると思います。出来ないことができるようになったなって。何でも日々勉強、お袋も何十年もパン作りしてるけど 「もうこれで満足、なんていうことは絶対にない。いまだに勉強だ」って言ってます。
片品特産の「花豆」をふんだんに使った「花まめぱん」
食べ物を作ってる人はみんなそうかもしれないけど、お客さんから美味しいって言ってもらえることがやっぱり一番ですね。今日も電話が来て、「あの~花まめパン買ったんですけど、すごく美味しくて。送ってもらう事ってできますか?」っていう電話だったんです。そういう時はやっぱりうれしいですよね。
片品は山の中で材料が限られてしまう面もあるけど、地域で採れる旬の美味しいものを季節ごとに使ってケーキを作ってゆけたらと思っています。ずっと同じものだと自分も飽きちゃうし(笑)。
実はこれは自分から作ったんじゃなく、地域の繋がりから誕生した商品なんです。
村の知人から、「おばあちゃんが、花豆煮たのをよく作って持ってきてくれるんだけど、食べきれなくて、パンに挟んでみたら美味しかった。渡辺製菓のパンに入れてみてよ」って言われたのがきっかけ。それから色々試作してるうちにこれは結構いけるかなって思って商品化しました。お客さんも、村内はもちろん、村外からもこれを買いに来る人は多いですよ。「うちの子、豆が大嫌いなんだけどこの『花まめぱん』は本当によく食べるんですよ」って、そういうお客さんが結構多くて。
『はげ盛り』で始めた『花豆ロールケーキ』なんかも、はげ盛りキャンペーンで宣伝してもらったのもあって定番になってきてますね。今でもちょっとずつ改良したりしてます。
『ちくわパン』はこの辺では珍しいけど北海道だと一般的なんですよね。使用してるちくわはスーパーとかに売ってるものとは違って、こだわって仕入れているもので、美味しいですよ。あと食パンは人気ですね。うちの家族も「よその食パン買うならウチの買う」って言うくらい、渡辺製菓オススメの逸品です。ぜひ!
片品村で冬期に実施される「はげ盛キャンペーン」。はげしい盛り=片品ことばで「大盛り」のこと。花豆ロールケーキもずしっと来るサイズです。
やっぱり色んなところにできる範囲で協力したり、顔を出すことは大事ですね。村の付き合いには積極的に参加出来たほうがいいと思います。商工会や消防団も最初は意義もよくわからずみんなたいへんな思いもすると思うんですけど、付き合いに参加することによって色んな人とも繋がれるし、商売にも繋がってくる。入ってみると意外と楽しいし、仲間は多い方が絶対楽しい。
片品で生活していると、自分自身、周りの人に生かされているんだな、と強く感じます。
住所 | 群馬県利根郡片品村鎌田4153−3 |
---|---|
TEL | 0278−58−3861 |
営業時間 | 8:30〜18:30 |
定休日 | 火曜日(月に一度連休あり) |
※営業日等は変更になる場合がありますので来店前にご確認ください